奈良地方裁判所 平成9年(わ)429号・平9年(わ)447号
主文
被告人を懲役一年及び罰金一六〇〇万円に処する。
未決勾留日数六〇日を右懲役刑に算入する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(犯罪事実)
第一 被告人は、亡岸田秀雄(平成六年四月二一日死亡。以下「亡秀雄」という。)の共同相続人である亡秀雄の妻岸田純子(以下「純子」という。)、亡秀雄の子岸田秀樹(以下「秀樹」という。)、同阪倉千里(以下「千里」という。)の各相続財産に係る相続税の申告に関し、同人らの代理人である石村利明から依頼されて、右相続人らの代理人としてその手続を行っていたものであるが、石村と共謀の上、相続人らの相続税を免れさせようと考え、全相続財産の課税価格は五億六九九八万九〇〇〇円で、これに対する相続税額は七七四四万七一〇〇円であり、うち純子の相続財産の課税価格は四億五七二九万五〇〇〇円で、これに対する相続税額は四六四六万八三〇〇円であり、秀樹の相続財産の課税価格は五六五九万七〇〇〇円で、これに対する相続税額は一五四八万九四〇〇円であり、千里の相続財産の課税価格は五六〇九万七〇〇〇円で、これに対する相続税額は一五四八万九四〇〇円であるにもかかわらず、受取生命保険金、外国債券など合計四億二一七七万一九六七円相当を除外した上、平成六年一二月二一日、奈良市登大路町八一所在の所轄奈良税務署の署長に対し、全相続財産の課税価格の総額は一億四八二一万六〇〇〇円で、これに対する相続税額の総額は四〇九万九四〇〇円であり、うち純子の相続財産の課税価格は九一三〇万円で、これに対する相続税額は零円であり、秀樹の相続財産の課税価格は二八七〇万八〇〇〇円で、これに対する相続税額は二〇四万九七〇〇円であり、千里の相続財産の課税価格は二八二〇万八〇〇〇円で、これに対する相続税額は二〇四万九七〇〇円である旨の内容虚偽の相続税の申告書を郵送提出(翌二二日受付)し、もって、不正の行為により、純子の相続に係る正規の相続税額四六四六万八三〇〇円の全額、秀樹、千里の相続に係る正規の相続税額一五四八万九四〇〇円との各差額一三四三万九七〇〇円を免れさせた(税額の算定は別紙1脱税額計算書記載のとおり)。
第二 被告人は、平成六年にその所有する農地を譲渡した仲西正彦(以下「正彦」という。)の妻で、その所得税の申告について正彦を代理する仲西富美子(以下「富美子」という。)から依頼されて右所得税の申告手続を代理していたものであるが、富美子、分離前の共同被告人榎堀静秀(以下「榎堀」という。)と共謀の上、正彦の平成六年分の所得税を免れさせようと考え、正彦の同年中の実際の総合課税の総所得金額は二一万三六一五円、分離課税による譲渡所得金額は二億〇三三九万七三五三円で、これらに対する所得税額は五八八五万三五〇〇円であるにもかかわらず、富美子及び榎堀において、右農地の譲渡価格が三億四五九五万円であるのにこれを圧縮して二億八〇五〇万円である旨偽った売買契約書を作成し、更に被告人において、正彦には買換資産を取得する意思がなく、したがって、租税特別措置法三七条四項に規定する譲渡所得の課税の特例の適用を受けることができないのに、正彦が右特例の適用を受ける一億六〇〇〇万円相当の買換資産を取得する見込みである旨虚偽の記載をした買換え承認申請書を作成し、正彦の平成六年分の総合課税の総所得金額は二一万三六一五円、右特例の適用を受けることによる分離課税の長期譲渡所得金額は三三一五万五〇〇〇円で、これらに対する所得税額は七八四万〇三〇〇円である旨虚偽の記載をした所得税確定申告書を作成するなどしてその所得の一部を秘匿した上、平成七年三月一五日、前記所轄奈良税務署の署長に対し、右買換え承認申請書及び所得税確定申告書を郵送提出(翌一六日受付)し、右特例の適用について承認を受けたが、右特例の適用を受ける場合の修正申告期限である平成八年四月三〇日までに同税務署長に対し、所得税の修正申告書を提出せず、もって、不正の行為により正彦の平成六年分の所得税五一〇一万三二〇〇円を免れさせた(税額の算定は別紙2脱税額計算書記載のとおり)。
(証拠)
括弧内の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
全事実について
一 被告人の公判供述
第一の事実について
一 被告人の検察官調書(三八から四四、四八)
一 石村利明の検察官調書謄本(二七から三一、三三から三五)
一 吉井清、山形裕子(一三)、岸田純子(二通)、岸田秀樹、阪倉千里、岸田和雄、岸田雅子、岸田邦雄、岸田彰子、岸田京子、岸田正雄、石村節子の検察官調書
一 査察官調査書(八、九)
一 脱税額計算書(一から三)
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面(七)
一 証明書(四から六)
一 遺産分割協議書一通(平成一〇年押第二号の1)
第二の事実について
一 被告人の検察官調書(一一二、一一四から一一八)
一 分離前の共同被告人の榎堀静秀の
1 第一回公判供述
2 検察官調書(一〇三から一〇七、一〇九)
一 松本増雄(二通)、島岡幸男、向所満弘、川端知子、山形裕子(九〇)、仲西富美子(九一から九八=いずれも謄本)の検察官調書
一 査察官調査書(五五から七〇)
一 脱税額計算書(五二)
一 「所轄税務署の所在地について」と題する書面(五四)
一 証明書(五三)
一 メモ書き一枚(平成一〇年押第二号の2)、名刺一枚(同号の3)
(適用法令)
罰条
第一の行為 平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条、相続税法七一条一項、六八条一項、二項
第二の行為 右改正前の刑法六〇条、所得税法二四四条一項、二三八条一項、二項
刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑の併科
併合罪の処理 前記改正前の刑法四五条前段、懲役刑について同法四七条本文、一〇条(犯情の重い第二の刑に加重)、罰金刑について同法四八条二項
未決勾留日数の算入 前記改正前の刑法二一条
労役場留置 前記改正前の刑法一八条
訴訟費用の不負担 刑訴法一八一条一項ただし書
(量刑の理由)
本件は、全日本同和会奈良県連合会に属する組織で、主にその会員の税務に関する事項の処理を目的としていた奈良県商工企業連合会の所長の地位にあった被告人が長期にわたって継続的に脱税工作を請け負っていたところ、平成四年に国税局の調査を受け脱税工作を摘発されたことから、依頼者に代わって修正申告した上、追加納付することを迫られたため、更にその資金の捻出等の必要から惹起した相続税法違反及び所得税法違反の事件である。納税という国民の義務を故意に免れさせるとともに、自己の利益を図った動機に酌量の余地はなく、財産の除外、買換特例制度の悪用等手口は巧妙で、常習的な態様は悪質といわざるを得ない上、ほ脱税額は高額で、ほ脱率も高率であり、その社会的影響も軽視できないことなどを考え併せると、被告人の刑事責任は重く、被告人に反省の情が認められること、依頼者側にも積極的な脱税行為があり、被告人にばかり責任を問えない部分があること、依頼者において所轄税務署に修正申告し課税額の納付を済ませていることなど被告人のために酌むべき事情考慮しても、主文の刑はやむを得ない。
(求刑―懲役一年六か月及び罰金二〇〇〇万円)
(裁判官 大西良孝)
別紙1
脱税額計算書
平成6年4月21日相続開始
被相続人 岸田秀雄
納税者 岸田純子
<省略>
(注)※は、配偶者の税額控除後の金額である。
脱税額計算書
平成6年4月21日相続開始
被相続人 岸田秀雄
納税者 岸田秀樹
<省略>
(注)※は、配偶者の税額控除後の金額である。
脱税額計算書
平成6年4月21日相続開始
被相続人 岸田秀雄
納税者 阪倉千里
<省略>
(注)※は、配偶者の税額控除後の金額である。
別紙2
脱税額計算書
<省略>